[薔薇] 芥川龍之介歌集より
すがれたる薔薇(さうび)をまきておくるこそふさはしからむ恋の逮夜は
香料をふりそゝぎたるふし床より恋の柩にしくものはなし
にほひよき絹の小枕(クツサン)薔薇色の羽ねぶとんもてきづかれし墓
夜あくれば行路の人となりぬべきわれらぞさはな泣きそ女よ
其夜より娼婦の如くなまめける人となりしをいとふのみかは
わが足に膏(あぶら)そゝがむ人もがなそを黒髪にぬぐふ子もがな(寺院にて三首)
ほのぐらきわがたましひの黄昏をかすかにともる黄蝋もあり
うなだれて白夜の市をあゆむ時聖金曜の鐘のなる時
ほのかなる麝香(じやかう)の風のわれにふく紅燈集の中の国より
かりそめの涙なれどもよりそひて泣けばぞ恋のごとくかなしき
うす黄なる寝台の幕のものうくもゆらげるまゝに秋は来にけむ
薔薇よさはにほひな出でそあかつきの薄らあかりに泣く女あり
詩心ごんどら文豪の詩